日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

鈴の音がする

あぁ、またこの夢だ。
満開の桜。春爛漫なんて穏やかな表現では追いつかない。百花繚乱、百花乱舞、そんな激しい言葉が似合いの狂い咲きの桜。
薄紅の花弁が身体を包む。強い風が吹き荒れて、視界を薄紅一色に染め上げる。
痺れるように、重い両手で持ち上げる、長い長い刀。
ずぐり、と埋まっていた刀身が姿を表す。朽ちた骸に埋まる刀身は、まるで今、この瞬間に打ち出されたように曇一つ無い。
刀身に映るのは、血塗れの自分の姿。滴る赤が、銀に反射する。


これは、誰だ?


顔は、私の顏だ。何年間も付き合ってきた自分の顏を間違える訳がない。
まるで鏡の様に映像を結ぶ刀身。私の背後に立つ、髪の長い女。
真っ赤な唇を弧に釣り上げて、女は涼やかな笑い声を響かせる。その声は、耳障りなのに気を惹きつける。耳障りなのに、耳を防げない。
もっと、もっと、その笑い声を聴きたくなる。


「綺麗ね、赤が。」


五月蝿い。黙れ。
叫んだはずの言葉は音に鳴らずに、口から漏れるのは意味を持たない呻き声だけ。


「次は、貴女の番よ。」


ずぐり。冷たい、熱い。痛い。い、たい。つめた、い。
中心を貫く、美しい銀。
ごぼりと、口から赤が溢れる。あぁ、死ぬ。私は、死ぬんだ。この女に、殺されるんだ。
瞳に映る、美しい女。まるで、彫刻の様な完成された完璧な美貌。


「こ、の・・・鬼が・・・っ。」








ずり落ちた布団。枕元でけたたましく鳴り響くアラーム。炬燵の上で狂った音を奏でる携帯。


「夢オチかい。」


また、あの夢だ。
同じ女が出てくる。狂った桜の下で繰り返される狂った遊び。


「桜の木の下には死体が埋まっているって、誰だっけ?」


煙草の煙を吸い込んで、窓辺に置いた鉢へと水をやる。
通販で見つけた小さな桜の苗木。お値段は驚愕の安値だったので衝動買いしました。
小さな蕾を沢山付けた小さな桜は、まだ開く気配が無い。僅かに色づいてきてはいるけれど。まだまだ開花は遠そうだ。今年の花見はこれで済まそうと思っていたのに。
煙草を銜えたまま冷蔵庫から胡瓜の漬物。鍋に残った味噌汁に火をいれながら、ついでに余った冷凍うどんを突っ込む。
ある程度グダグダになるまでうどんを煮込んだら完成。冬場は味噌汁鍋いっぱいに作っても腐らないし、捌けるのも早い。
がっつり朝から炭水化物を摂取して、歯磨きと身支度を済ませる。
随分春めいた日差しの中、もうコートもいらないだろう。パーカーを引っ掛けて、何時もと同じ鞄。
煙草と携帯をポケットに突っ込んでから自転車の鍵を取り上げる。


「よしっ!!」


思いっきりペダルを踏み込んで全速力で走り出す。
ちょっと前までは会社まで最短コースを走っていたけど、最近では避けるようになった信号。
遠回りだけど車が少ない道なので、自転車が走りやすい。
ちりりと、鞄に付けた鈴が音を立てる。
小さい頃にばあちゃんに貰ったお守り。子供っぽいかとも思ったけど、ばあちゃんの顏を思い出しては捨てる事を躊躇して未だに持ち続けるハメになった。
田舎で現役で畑を耕すパワフルばあちゃんだけど、この鈴を私にくれた時は、まるで少女の様な可愛さがあった。私も、まだ可愛かった、と思いたい。
鈴の音色は、心の澄みやかな人程美しく鳴ると言う。そんな言い伝えと共に渡された小さな鈴。
ランドセルから中学の通学鞄。高校のスクールバック、携帯のストラップ、家の鍵からマンションの鍵、そして通勤鞄。
場所は違えど、常に私と行動を共にしてきた小さな鈴。


いいかい?鈴の音が曇る時は気をつけるんだよ。


どうしてだったか、確かに聞いたハズなのに思い出せない。鈴の音が曇るのは、どうしてだっけ。そして、何に気をつけるんだっけ。
電話の一つでもして聴けばいいのに、普段は日常の中に沈んでしまう疑問は、結局いまだに質問のタイミングを掴めずに疑問のままだ。
一番大事な事を忘れているようで、でも普段の生活には何も関係ない。だから、そのまま疑問として私の中に埋没していく。
そんな些細な疑問をまとめたら、きっと一冊本を書ける。


「にしても、変な夢だ。」


赤信号で停車。ぺこぺこと点滅する、間抜けな信号。
ぱーぱっぽー。と間抜けな音で知らせる青信号。思わず一緒になって歌う。誰に習った訳でもないのに、自然と覚えた歌詞。


―通りたいの?


ちり、と鈴が鳴る。
耳元を涼やかな声が撫でる。
気のせいだ。まだ夢のショックから抜けきれていないんだ。
そりゃそうだ。殺される夢なんて、ショックが大きいはずだ。ましてや、あんなリアルな、夢。リアル?殺された経験なんて有るわけない。あったら怖い事このうえない。
なのに、どうして私はショックを受けていない?むしろ、あれが当たり前の様に受け入れている?


「鬼は、貴女よ。」


ペダルを漕ぐ足に力を入れる。
まるで、何かから逃げるように私は走る。追いかけるような、からかうような、笑い声。夢で聞いた、あの耳障りな不思議な笑い声が聞こえた気がした。






―後悔だけなら猿でも出来る―

猿に失礼だろう。
ども、古歌です。
あの、ごめんなさい。ちょと書きたくなったもんで。続き書いちゃった。
そして、これを今年の桜連作にしようと思います。
え?今年って今年が初めての試みだろう?うん、そうです。
毎年やってる的な雰囲気出したら受け入れてもらえるだろうって打算です。
女は打算で出来ているのだよ、ワトソン君。
シャーロックの新作見たいー!!ジュード・ロウ大好きだ!!ロバート・ダウニーJrも大好きだ!!
モリアーティ教授出てくるんだよね?ちゃんと出てくるんだよね?教授は古歌の永遠の憧れです。
ってことで、カテゴリも桜連作で新しく作ってみました。
これでイラスト描けたら良かったのになー。上手い、下手の議論以前に、古歌には絵心と言うものが欠片程もありません。
うーん・・・白澤さんレベル?イソギンチャクに人の精神を抉る顏を描くレベルです。
昔、リアルに猫の絵に鳥足付けた古歌さんですから。
絵描くの好きだけど、なになにを描け!!って苦手だなー。
ではでは、らぶぅー。