日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

籠の鳥は何を思うか

籠の鳥は何も知らないフリをする。
生まれた瞬間の気紛れか、籠の中。一人歌うは悲しき旋律。今日も明日もその先も、待ってる未来に外はない。この籠の中だけが世界の全て。何時か。何時の日か、きっと外の世界に飛び立てる。
そう思ったのは遥か昔の幼き籠の鳥。願っては裏切られ絶望をしてはまた願い、幾年もの時間が流れて生まれる絶望。願うには、籠の鳥の絶望は深すぎた。
やがて、籠の鳥は忘却と享楽と刹那を求めた。
それは、哀しき鳥の哀れな防衛本能。そうしなければ、生きていけないから。
籠の鳥は生きる事を諦めない。死をもって自由を勝ち取る。そう願った時期もあったはずなのに。
籠の鳥は、今日も旋律を奏でる。
誰に聞かれる事もない、たった一人の哀しき旋律。
あぁ、籠の鳥は何を思うのか。
旋律の先に見える景色は、一体どんな色をしていたのか。


煌びやかな世界、作り物の青空、決して曇ることの無い世界。
籠の鳥は、その中で笑い奏で囁く。
何も知らないフリで、愚かな周囲を振り回す。
籠の鳥の言葉は絶対。
鳥の気紛れな囀りは、周囲を恐怖に陥れる。そう、それこそが鳥の娯楽。唯一許された鳥の自由。飛び出す言葉に嘘はない。飛び出した先から、全てが真実になる。
国が滅ぶと囀れば、隣国は一日で崩壊した。
人が滅ぶと囀れば、海の彼方から恐ろしき病気が舞い降りた。
それでも、籠の鳥は安全だ。国も、人も、全てが鳥には関係のない世界。
人々は、籠の鳥の存在に怯える。
籠の中に閉じ込めれば安全だと思った愚かな人々を、籠の鳥は嘲笑う。そして、気紛れに翻弄する。
予言なんて生温いものではない。
口にする全てが真実になってしまう、恐ろしき能力。
それを恐れた人々は、その口を塞げて声を上げた。生まれた恐ろしき命は、その能力を発する前に封じてしまえと。
だが、国の賢者は閉じ込めるに留めた。
この鳥の能力が、何時か必要になるだろうと。隣国が脅威となったら?王族に逆らう人々が現れたら?世界が崩壊しそうになったら?
鳥の能力は、使い方では世界を救えると、賢者は利己に考えた。
その愚かな考えが、鳥には手に取るように解った。
媚、諂い、幼き鳥の機嫌を伺う賢者。
気紛れな鳥は、その気紛れ故に賢者に従う。
賢者は笑う。愚かな籠の鳥は、外の世界を知らずにこの甘やかで愚かな作り物の世界に溺れているのだと。それを取り上げられることを恐れて、従うのだと。


月日は鳥を成長させる。
籠の鳥は、それでも籠の鳥でいる。
抜け出すことなど、本当は簡単なのだ。
ただ一言、その舌に音を乗せて吐き出せばそれは真実となるのに。
籠の鳥でも囀ることの出来ない真実。



さて、籠の鳥は何を思うのか・・・。