日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

届かない声ならいらない

赤銅色のお鍋。どうしても欲しくて、高かったけど清水の舞台から飛び降りるつもりで、一生使うつもりで買った。
毎日毎日、綺麗に磨いて使ってる。
壁に一列に並ぶ様々な香辛料。まるで薬学教室みたいだと言われるぐらいに集まっている。今時手軽に使えるように小さなパックでも売っているけれど、専門店で計り売りしてるものを集めては、百均で買った瓶に入れていく。
手書きのラベルを作る時が一番楽しい。


ぐつぐつと煮込まれていく茶色のシチュー。ブラウンソースのシチューよりも、クリームシチューの方が好きだと言っていたけど知らない。
どうせ食べるのは自分だけだし。
牛肉の塊が箸で切れるまで煮込んだビーフシチュー。カリカリにトーストした全粒粉のパン。ワインはどっしりと重い赤。ドイツワインだとかでお土産にもらって以来、気に入ってネットで取り寄せるようになった。
近くに店があればいいけど、生憎こんな山奥じゃ店なんて無い。車で町まで買い物に行く生活。それでも、この家は気に入っている。

隅々まで磨きぬいたフローリング。全て手作りの家具たち。特に暖炉が一番好きだ。冬場、この暖炉で焼き芋。景色に合わないと言われるけれど、薩摩芋は美味しいからいいじゃないかと笑った。


この生活の全てが、好き。
山奥で、閉ざされた世界で、何が悪いのか解らない。
この生活に何も不満はない。煩わしい視線も、喧騒も、何も無い生活。時々聞こえるのは動物達が立てる気配だけ。それが良かったのに。それだけで良かったのに。
不便?何が?
今の世の中、世界は全て電子で直結している。画面を除けば世界の裏側とだって話すことが出来る。
時間は越えられないけれど、物理的な距離は関係無くなる。
買い物だってそう。画面を除けば、世界のありとあらゆる物が手に入る。
何を不便に思う。何が不便だと思う。
煩わしい繋がりなど何一ついらない。


伝わらない。
言葉をどれだけ重ねても、誰にも伝わらない。
この生活が好きなんだ。
邪魔されたくないんだ。
どうして?何で邪魔をする。



「お心、決まりましたか。」


五月蝿い。


「全ては貴方の為なのですから。」


黙れ。



「どうか素直に。」


余計なお世話だ。
グルグルと、鍋の中身をかき混ぜる。
あぁ、美味しそう。これなら、ワインとも良く合うだろう。
深い、深い、ブラウンに沈む。
ぐるぐる、ぐるぐる。


「こちらを、向いていただけませんか?」



あぁ、五月蝿いね。



「その顔・・・すぐに救急車・・・っ!」
「下に・・病院へ・・・。」



あぁ、五月蝿い。
五月蝿い。五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!




伝わらない言葉ならいらない。
伝わらない言葉を紡ぐ声なんていらない。







―反省会―

平身低頭土下座で許していただけますか。
ども、古歌っす。
うん。あの。うん。あのねぇ、こう舌を切り取ってシチューにしちゃったって発想だけ浮かんでこうなったとか。なんだろう。子供なんだと思う。で、一人で暮らすには不便な山奥で一人で周りの大人が引き取ろうそうしようで必死の抵抗虚しく決定されて伝わらない言葉を切り取ったって事にしました。今、しました。
見切り発車は辞めろと自分に言いたい。ぶっちゃけ何も考えずにシーンだけ考えてました。ごめんなさい。