日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

三日月夕の考察

ふわりと、煙草の煙が室内で遊ぶ。
紅茶と珈琲とちょっとお高いお菓子。
三時の生徒会室は、ちょっとまったりとした空気に包まれる。
いつもはカリカリプリントにサインする音とか、キーボードの物凄いタイプ音とか響くけど、今だけは全てが停止。
午後の日差しは小金色に輝いて、室内を温かく照らす。
今度は、三つの煙がふわり。
此処って、中学校の生徒会室だったよね?平然と置かれた灰皿が不思議とマッチしてるけど。


「三日月夜、煙草は二十歳になってからだよ。」
「・・・それ、吸ってる貴方に言われたくないんですけど。」
「いいんですよ。僕達二人は年齢不詳なんですから。」


火村さんと有栖川さんって、一体いくつなんだろう。噂だと二人とも既に成人してるとか、実はこの中学校が建設された時から居るとか、すでに妖怪に近いと思うけどな、それじゃ。
三人が咥える煙草。
オトウサンが煙草吸ってるのは嫌いだったけど、この三人が吸ってるのは純粋に似合うなって思う。カッコいいんだもん。
俺は煙草吸えないし。あんなの、咽るだけで美味しくないし。夜がすっごい美味しそうに吸ってるから、一口貰ったけど。甘くもないし、苦くて辛いだけだった。


「三日月夕、どうしたの?」
「はい?」


火村さんが笑う。この人の笑顔は、まるで氷の彫刻みたいだ。時々蕩けそうな笑顔を見せるけどね。


「さっきから、ずっと見てるでしょ?吸いたいの?」


軽く掲げる煙草に、多分俺はしかめっ面でもしたんだろう。面白そうに笑った火村さんはおいでと手招き。夜の隣から立ち上がって、火村さんの隣に座ったら、そこじゃないでしょって、膝の上に持ち上げられた。向かい合わせで抱っこされるの、恥ずかしいけど嫌じゃない。


「煙草、欲しいの?」
「いらないです。」
「美味しいのに。」
「苦くて辛いだけじゃないですか。」


俺の言葉に、子供だねぇって笑う火村さん。そのまま、可愛い子って抱きしめられる。可愛いって、俺男だからあんまり嬉しくないんだけどな。
俺と夜は同じ顔だけど、夜はカッコいいって言われる。俺は可愛いがほとんど。なんでだろうね、同じ顔なんだよ?俺も黙ってると夜と間違えられるけど。


「夕くん、僕の所にもおいで。」


今度は有栖川さんが手招き。
その瞬間、夜の機嫌が下降したのが解る。一直線に落っこちる感じで。火村さん相手だとそうでもないけど、夜は有栖川さんがあんまり好きじゃないみたい。胡散臭いって言ってる。あんまり人の好き嫌いを言わない夜にしては、珍しい反応だよね。


「有栖川さん。」


火村さんと同じ様に、有栖川さんも俺を抱っこする。
そんで、同じ様に可愛い子って抱きしめる。俺、なんだかヌイグルミ扱いされてる感じだな。これでも一応男の子なんだけどなー、俺。
いい子いい子と頭を撫でられて、ちょっと気持ち良くて、まぁいいか。
有栖川さんの指は綺麗だ。ピアノとバイオリンを奏でる有栖川さんの指は長くて繊細。そして、すっごく綺麗なんだもん。楽器を扱う人の手って、なんでこんなに綺麗なんだろう。


「「ムカつく。」」
「んに?」


ひょいって、火村さんが俺を持ち上げて夜が受け取る。
あの、俺荷物じゃないんだけど。なんで、そんなに軽々と持ち上げられるのか不思議だ。火村さんって、マッチョじゃないんだよ?むしろ、華奢な感じだもん。男の人にしたら、細い方だと思うし。


「夕、駄目だよ?アイツは危ないんだから。」


夜の言ってること、良く解らない。
有栖川さんって、危ない人なの?どこへんが?


「いやですね、人を犯罪者みたいに言わないでください。」
「犯罪者ならましだよ、ケダモノ。猫の皮被った狼が善人ぶるな、気色悪い。」
「皮を被るだけましでしょう。」
「剥いでなめして毛皮にしてあげようか?俺が懇切丁寧に手塩にかけて作ってあげるよ。」
「遠慮しますよ。利用価値のある皮なんですから。誰が戦闘狂いの偏執狂に渡しますか。」


氷点下の口喧嘩。
火村さん、すでに両手に得物構えてるんだけど。
それに、夜は見えない位置で警棒のグリップ握ってるし。
この三人、結局喧嘩できればいいんじゃないの?


「三日月夜、今だけ共闘しようか。」
「賛成です。」


言った直後に、火村さんが有栖川さんに殴りかかる。予測していたのか、有栖川さんの手の中には銀色の金属パイプ。残りの四本を取り出してつなげれば、あっと言う間に薙刀の親戚が出来上がる。
だから、一体何処に隠し持ってるんだろう。夜は背中に仕込んでるけど、火村さんと有栖川さんは仕込み場所まで不明だもんな。
火花散らして打ち合う三人を横目に、お菓子をつまむ。
広い生徒会室だけど、ちょっと避難しておこう。
カップをお菓子の大皿を抱えて窓際の火村さんの机に非難。
この三人、いつまで喧嘩続けるんだか。