日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

双子

真っ白いカーテンが揺れる。
視界の端をちらつく布がちょっとだけ脳内を掻き混ぜていく。
硬いベッドと消毒の匂いに、此処が保健室だと脳内で判断する。


「気が付いた?」


眼鏡が似合う保険医は、前の先生が妊娠で産休入ってその代理。男の保険医って珍しいって、女子が騒いでいた。赴任して一ヶ月ぐらいは保健室に人だかりが凄かったのも、記憶に新しい。
そっとベッドから起き上がったら、やんわりと、でもしっかりとした力で元に戻された。


「まだ横になってなさい。」


ベッドの上は嫌いだ。一人でこんな真っ白なベッドに横になってると、あんまり良くない記憶が戻ってくるから。パニックになるのは、嫌だ。


「昨日は、あまり寝てませんか?」
「・・・いいえ、ちゃんと寝ました。」
「食事は?今朝は何を食べましたか?」
「覚えてないです。」


食べてないって応えたら怒られそうなので、嘘を付く。先生はため息付いて、もう少し寝なさいって、笑う。
ベッドを遮断するカーテンが引かれて、狭い真っ白な空間の中に一人。
取り残されたって、瞬間的に思って、それからゆっくり深呼吸をする。大丈夫、一人じゃない。此処には他の人間もいるんだから。大丈夫、怖くない。


「先生っ!!」


鼓膜を揺らす大声とドアを叩きつける音。


「授業中ですよ?」
「呼ばれた。」


カーテンが開いて、同じ顔。
俺たちは、双子。


「夕、しんどい?」
「うん。」
「大丈夫、俺がいるでしょ?半分、チョーダイ?」
「夜、しんどくなるよ?」
「平気だよ。半分こだもん。」


こつんって、おでこを合わせて夜が笑う。触れ合った場所が温かくて、じんわりと優しい感じが流れてくる。
目を瞑って、その感覚を追いかける。
ちょっとだけ、しんどいのを夜に渡す。


「夕、だいぶしんどかったでしょ?駄目だよ、無理に学校にきちゃ。」
「う・・・でも。」
「結局倒れてちゃ、意味無いの。」
「う〜・・・。」
「今日は、帰るよ。俺もしんどいもん。」


学校に来るのは楽しいんだもん。学校大好き。
勉強も運動も苦手だけどね。


「先生、俺と夕は帰るね。」
「早退届けは渡しておいてあげましょう。夕くん連れて帰りなさい。」
「ありがとう。」


準備周到な夜は、ちゃっかり俺の鞄も持ってる。俺は帰るって言ってないのになー。ちょっとしんどいの直ったし、このまま学校に居たいんだけど。


「夕、明日も学校はあるの。」
「まだ何も言ってないじゃん。」
「言わなくても解る。明日のために、今日は帰ります。」
「・・・。」
「返事は?」
「はーい。」


仕方ないや。半分こしたから直っただけで、夜にも迷惑かけたし。
半分こは久しぶりにやった気がする。昔はしょっちゅう何でも半分にしてたけど、最近はそうでもないよね。
苦しいのも痛いのも、昔より少ないもん。


「夜。」
「どしたの?」


自転車の後ろ、夜の背中に張り付いて帰る何時もの道。今日はちょっと寒いけど、ラッシュに巻き込まれるよりもいいよねって、二人で決めた。


「久しぶりだね、半分こしたの。」
「あー・・・そうかも、な。」


昔は、もっと痛い事が沢山あったし、怖い事も沢山あった。それから、苦しい事もあった。何となくしか覚えてないけど、オトウサンって人が居る時は、本当に嫌だったんだ。
でもね、七年前のクリスマスの時に、オトウサンって人は居なくなってくれたんだ。夜と二人で一生懸命に、サンタさんにお願いしたんだもん。オトウサンを何所か遠くに連れて行ってくださいって。痛いのも、苦しいのも、怖いのも、もう嫌だったから。


「夕。」
「なに?」


自転車を何時もの場所に仕舞って玄関の鍵を探していたら、夜の真剣な顔。
どうしたんだろう。


「夕はさ、今が楽しい?」
「うん?楽しいよ?」
「幸せ?」
「うん。」


俺の答えに、夜は笑う。良かった、夜が笑ってる。


「俺が、夕を守るね。」
「じゃ、俺は夜を守るね。」


小指を絡ませて、約束の指切りをして。
夜と一緒に、同じベッドで眠って。
明日も、学校に行って。きっと楽しいからね。