日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

君の隣で眠りたい

満開の桜の下で再開なんて、出来すぎたドラマみたいだった。
風が染まる中、変わらない姿で佇む貴方は笑っていて、ただいまって。
なぁ、どれぐらい待っていたと思う?時間は数えないって言ったけどさ、もう死んでるんじゃないかって何回も思ったさ。
そんな貴方を待ってる自分が、一番馬鹿なんだろうけどね。


帰ってきて、長い話をした。
あの日別れた道の先で、お互いに色々あって。
アンタは笑って凄まじい物語を話すけど、自覚ある?死んでても、おかしくないんだよ?
俺の話に、アンタは面白そうに相槌を打っているけどさ、アンタへの恨み言の一つは言ってやろうと思ったけど、結局そんな暇は無い。
桜の下で、長い長い話を終わらせて、それから二人で満開の桜を眺めて、空を眺めて、どこまでも続く大地を眺めた。
視界を遮るものが何もない赤土の大地は、俺にもアンタにも遠い夢物語に見える。
俺たちが育った環境とはかけ離れたこの場所こそが、帰るべき場所なんだけどね。俺とアンタの心の中にある故郷は、この大地だ。


「アンタは、変わらないな。」
「お前だってそうさ。俺たちの根元は、変えようが無い。」


あぁ、そうかもしれない。
俺は相変わらず諦念と絶望を抱きつつも生きることを放棄できなくて死ねないし、アンタは自信と不遜が服を着たみたいだし。
俺たちは、変わらないのではなくて、変われない。新陳代謝が出来ない。根元は常に、あの日のままで。


「生きてるのが、不思議だ。」
「待ってろと言っただろ?もし死んでいたら、墓を掘り起こして死体にキスして抱いてやるさ。」
「・・・それ、人としてどうなのさ。」
「最高だろ?骨まで愛してなんて綺麗なことは似合わない。腐敗してもその肉を食らってやるさ。」
「気持ち悪い。しばらく、肉食えない。」



俺の言葉を笑い飛ばすアンタが、綺麗だった。
太陽の下に居れば太陽の化身だと思えて、桜の下で笑えば桜の化身に見える。きっと、月の下でもそう思うのだろう。
どんなアンタでも、俺は惚れるだろうね。馬鹿みたいだ。
どうせなら、俺の最期はアンタに与えてもらいたいんだ。
殺して欲しい訳じゃないけど、人間である以上何時かは命が終わる訳で、その瞬間をアンタが与えてくれたら最高なんだけどな。アンタのその眼に俺だけを映して、俺だけの為にその手足を動かして、そして俺の最期の鼓動を耳にして。
恨み言なんて言わないさ。俺が望んだことだもん。
己の赤い海の中で、きっと俺はアンタを見つめて微笑むよ。最高の笑顔でアンタに愛を囁いて、アンタの記憶に張り付いて、その無駄に回転の速い脳髄を常に刺激してあげる。
考えただけでゾクゾクと戦慄が背中を駆け上がる。それと一緒に感じるのは、明らかな欲望の炎。
体の奥がゆっくりと燻っていくのが、なんとも心地良い。



「長かったな。再開するまで。」
「・・・再開できて、よかったよ。」



俺の本音。
再開を信じて、だからこそ待っていたのだけど。
帰ってくると約束をしたから、この赤い大地で待っていたのだ。時間を忘れたフリをして。


「取り合えず・・・。」
「取り合えず?」
「お前の隣で、寝たい。」
「賛成。」



互いの体温を分かち合って、あのクソみたいな施設に居た頃のように、寄り添って眠ろうか。
アンタが用意した、大きな天蓋付きの馬鹿みたいに豪華なベッドでさ。きっと、あのフカフカしたベッドは天上の心地よさだろうからさ。