日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

宴の準備

お昼時、部署内ではザワザワと落ち着かない空気で満ちている。
本日、我が部署ではお花見が行われるのだが、その形式が何時もと違う。今年は趣向を変えて、なんてあの馬鹿が言っていたけど。
五時の定時と共に一度解散後、六時に会社に再び集まれとの事。しかも、全員必ず私服を着用。
いままでだと、業務の終了したものから追って近くの公園に集まり自然と酒盛りをして流れ解散ってのが多かったかな。
それが、今年は行き先すらハッキリしていない。お花見ミステリーツアーとか真面目に馬鹿な事言っていたけど。


「鈴音、何か聞いてるか?」

「いや。今年の花見に関してはアタシ、何も関与してないし。」


今朝から馬鹿の顏も見ていない。遊びに全力捧げる風潮のある会社だけあって、どうも花見準備で有給を取ったらしい。まぁ、仕事はキッチリ終わってるから文句も言わないけど。


「あのワンころがお前さんに何も言わないってのも、珍しいな。」

「あによ、それ。」

「いやー、良く懐かせてるからさ。お前、本当新人に好かれるよな。つか、幻想持たれるよな?」

「ま、半年も一緒に仕事すれば現実見れるけどね。」

「そりゃな。こっちも何時までもお子様あやして遊んでる訳にもいかないし。今年の新人豊作とは言え、まだ学生気分も子供気分も抜けてねーしな。」

「それ解る。もう同じ日本語とは思えないしさー。」


あの馬鹿は曲がりなりにも中途入社だけあって、基本は出来ている。が、問題なのは新卒で入った社員たちだ。
とにかく、何をするにも指示待ちの傾向が強い。かと思えば、雑用の類はやりたがらないし。ここ最近、頭痛の種となるのは新入社員ばかりだ。


「女の子もなー、お前程とは言わないがもうちっと、社会に耐性あっと嬉しいが。」

「どーゆー意味よ?ん?」


増えた女子社員はいいが、業界間違えてませんか?と言いたくなる子ばかりで困る。私、女子苦手なのに押し付けられるし。
こうやって愚痴れる同期入社がいるからまだイイけどね。


「ちゃっちゃか仕事終わらせて、花見しねーとな。」

「あんたは可愛い女子の私服見たいだけでしょーが。」






終業のチャイムが高らかに響き、ほっとした空気が流れる。明日は公休日で会社が休み。
あちらこちらでお疲れ様の声と共に、今日の花見の話題がチラホラ。


「鈴音は?一回帰るのか?」

「いいえ。着替え持ってきましたんで、ロッカーで着替えてロワイアルで珈琲でもと。部長は?」

「僕は家遠いからね。残留組でお茶でもと思って。一緒しようか?」

「そうですね。」


五分後に会社近くの喫茶店ロワイヤルで待ち合わせだ。
あそこは珈琲だけは驚くほど美味い。店は古いけど手入れが行き届いた店内だし、何より五月蝿い客がほとんどいない。喫煙可なのも嬉しい特典だ。


「鈴音さん、お疲れ様でーす。」

「はい、お疲れ様。みんなは一度帰るの?」

「もちろんです。」


更衣室できゃっきゃとはしゃぐ年若い子達が眩しい。気合入れてメイクだのファッションだのを装備していく姿は、見ている分には楽しい。混ざろうとは思えないし、あんな情熱は私のどこを探しても見つからない。


「鈴音さんは、今日はどうするんですか?」

「何が?」

「やだぁ、着替えですよぉ。」

「鈴音さん、スライル良いから何でも似合いそうですよねー。」


普段はスーツばっかりだし、こうやってみると皆可愛い服着るんだなぁなんて思う当たり、私女子力ないみたいです。
いや、そりゃ可愛い服は好きだけどさー、実際に着るとなると話は別じゃん?好きな服と似合う服は違うし、いや似合わなくても貫く志さえあれば着ても良いと思うけど、こうやってみると雑誌の切り抜きでも眺めてる気分になってくる。


「いやぁ、もう皆みたいに可愛い格好は出来ないよ。」

「そんなことないですよぉ。」


いま、副音声でそうですねって聞こえた気がしたぞ。自覚してても人に言われると腹立つのは何でだろうね。


「鈴音さん、それって着物ですか?」


とっとと着替えてロワイアル行こうと思ったら、ちょっと落ち着いたトーンの声。
去年配属された、小鳥遊さんだったかな。丁寧な仕事をする人で、書き文字がお手本の様に整っているのを覚えている。これでもう少し仕事が早かったらなぁとも思わなくもないけど。


「そう。随分前だけど、祖母が古い着物ほどくって言うから譲ってもらったの。」


この会社に入ってすぐの頃から。ばあちゃんが古い着物を処分するけどって連絡くれてすっ飛んで行ったんだっけ。物持ちがいいだけあって現品でも十分に通用するような着物ばかりだったなぁ。
これも、その時に貰ったもの。ただ、着物は普段着ないから自分でリメイクしてジャケットっぽく仕立て直した。素人仕事だけど、結構気に入ってる。


「もしかして、手作りですか?」

「うそーっ!!でも凄く綺麗だしオシャレですよぉ?」

「着物ってもっと地味な柄ばっかりだと思ってたぁ!!」


途端騒がしくなった周囲に苦笑。うん、大学の同期の女の子にもこうやって騒がれた覚えがある。
下手の横好きでやってるだけなんだけどね。


「着物も、今は新しい柄あるしね。それに、これ大正ぐらいの柄だから、もっとロックなのもあるよ?面白いのだと骸骨とか、十字架とかね。大阪のオバちゃん並みに派手なアニマル柄とか。」

「鈴音さんって実は家庭的なんですねー。」


・・・どーゆー意味だ。
適当に切り上げて更衣室を出る。あぁ、面倒だった。可愛いとは思うし、素直ないい子達だとも思うけど、あの喧しいのはどうにかならんもんかねぇ。


「あのっ!鈴音さん!」

会社を出た所で小鳥遊さんに追いつかれる。


「さっきはスミマセンでした。まさかあんなに騒ぎになると思わなくて。」

「いいよ、気にしてないから。」

「あの、鈴音さんお帰りになりますか?」

「ううん。ロワイアルで珈琲でもって思って。残留組皆いるみたいだし。」

「あの、それじゃ、あの、ご一緒してもいいですか?」


連れ立ってロワイヤルのドアを開ければ、すでに陣取っていたメンツが手を上げる。
部長を筆頭にした部内でも良識派の面々だ。私の所属する第一管理部はちょこーっと特殊な部署で、会社ないでの雑用係とも言える。
あんまりにも灰汁が強くて通常の部署内では収まりきらない、言ってしまえばワルガキばかりが集まった様な所だ。その他にも新人研修を行なったり、使えるようになるまで仕事を叩き込んだりとまぁ節操がない。あげくデザインから設計、現場仕事など、一から十まで出来るスキルのある人間ばっかり集まってしまう。
そんな部署が作れるぐらいに鷹揚な会社なのはありがたいけどね。


「小鳥遊さんも一緒ですけど。」

「いいよー、僕たちインベーダーやってるから。」


積まれた百円玉を忙しなく投入してる男連中を横目に珈琲を二つ。本日のオススメはコロンビアの特性ブレンドらしい。
ちょっと濃い目でくどいかと思いきや、飲み口の割に後味がさっぱりしている。さすがマスター、外さないね。


「私、珈琲って苦手だったんですけどこのお店のは美味しいです。」

「そう、良かった。」

「あの、鈴音さん。その、あの、手作り。そのジャケット。」

「あー、下手の横好きって奴かな。初めは、着物の生地をポーチにしたりとかだったんだけど。そのうち服も作れるようになちゃって。」


小鳥遊さん、スゲェ早口なんですけど。普段話すことってないけど、この人おっとりしてるかと思いきや、結構な突撃型なんだ。
聞けば、小鳥遊さんも好きで手芸をするらしい。もっぱら刺繍ばかりだと言うが、刺繍の方が凄いって。服を作るのは好きだけど、刺繍に手を出した事はない。あんな根気の居る細かい作業出来ないって。その点、服作りは楽だ。ミシンさえあれば。


「でも、意外でした。鈴音さん、凝ってるなぁとは思いましたけど。」

「そう?」

「はい。スーツもそうだけど、持ってるバッグとか靴が。凄く丁寧に使い込まれてるし、それに、あの、その・・・。」

「普段の行動からギャップがあるとは、自覚してるけどね。」


そんな事って慌てる小鳥遊さんだけど、顔にデカデカと書いてある。解りやすい人だなぁ。素直と言うか、純粋と言うか。他人事だけど、この人詐欺被害にあう典型的なタイプかも。
少しだけ心配になるけど、所詮は他人事。そこまで私が口を出す義理も無いし。何より、成人して社会人となった一人の女性に対してかける言葉でも無い。
人は皆そうやって大人になるんだよ。使いもしない英語教材を買ったりとか、自分探しだ磨きだと無駄に年会費払うスポーツジムとか。そんな小さな積み重ねが、人としての魅力や深みに繋がると思いたい。


「ぼちぼち時間かな。会社前だっけ?」

「あ、もうそんな時間ですか?・・・部長、その景品の山は?」

「インベーダーで高得点出すと、お店がくれるんだよ。貰うものはタダなら断るなって家訓なんだよ。」


何も持ってなかった部長が持ってるのは駄菓子とジュースの山。
この人って、昼行灯と呼ばれるけど結構な狸であり無駄スキル満載な人だったんだよね。
一同そろってロワイアルを出て会社の前へ。私の見間違いでなければ、停まっているのは小型のマイクロにしか見えないけど。なにか?これもあの馬鹿が手配したんか?


「どもー、一番のりなんでお好きな席へどーぞ。」

「おい、ちょっと待て。」

「大丈夫ですよ。ちゃんと予算内に収まってますし、運転は俺がしますんで。」


爽やかな笑顔で誤魔化すな。会社の花見でマイクロ出動なんて、私の記憶が正しければ入社してから初めてだ。
予算内の言葉に安心した連中は次々乗り込んで行くし。大丈夫か、このお気楽会社。


「千音寺。」

「はい?」

「帰りは、私が運転するから飲んでイイよ。アンタ、いける口でしょ?」

「いやいや、幹事が酔っ払うとマズイんじゃ。」

「飲め。先輩命令。」


これぐらいは、やってやるさ。ついでに、この馬鹿一度酒の席で揉まれる方がイイ経験になるしね。
男社会だけあって、酒の席で飲まない男はあまり褒められないし。絶対に絡まれるだろうし。

さて、どこへ連れて行ってくれるのかね・・・楽しみだよ、本当に。








−懺悔たーいむ−

どもぉ。古歌です。ソメイヨシノは散ってるけど、まだ山桜も八重桜も残ってるし、北海道は五月まで桜咲いてるよね?と言い訳しつつも桜連作の続きっす。
ちなみに、本日古歌さんお休みの為にちょこーっと遠出して枝垂れ桜を見に行ってきました。
パピーとマミーの三人で遠足気分でお菓子買って。



凄く綺麗でした。山奥で、しかも隠れ名所的な場所だったらしくほぼ人がいないし。出入り口のところで一組お花見してるグループいたけど、ほぼ貸し切り。思う存分写真を撮れましたよ。
ただ、携帯のカメラなので限界は感じるけどね。デジカメ欲しいなぁ。
一デジのイイやつ欲しいけど、スキル考えると無駄と言わざるを得ない。
でも欲しいんだもーん!!カメラ良くしたらもしかしたら劇的にスキルもアップするかもしれないかもしれないじゃないかっ!!って思うところでもう駄目なんだけどね。


さて、明日はめっちゃ忙しいよぉ。久しぶりに満室だよぉ。泣きたい。
しかも雨だって。もう降ってるけど。雨で電車が停まればいいのに。むしろ線路寸断されてキャンセルになればいいのに・・・呪ってみるか?
では、今から逆さてるてる坊主を大量生産体制に入る古歌さんがお送りしました。んじゃ、らぶぅー。