日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

人形芝居

別に強い訳じゃない。
かと言って、弱い訳でもない。
ただ、良く解らないのだ。
長い間動かさない筋肉は動きを忘れて本来の役目を放棄すると言う。
きっと、自分の顔の表情筋は、そうやって動きを忘れたんじゃないだろうか。
もとから、あまり感情が動かないタイプだった。笑っても泣いても怒っても。所詮は無意味じゃないかとか、思えば可愛くないタイプだっただろう。
子供時代の記憶は薄いが、覚えている限りでは常に一人で居た気がする。


「少しも可愛げがないんだから。」


吐き捨てられた言葉の意味が解らない。
涙って、流してもいいものなのか?
つか、どうやって流すものだんだ?
方法を知らないから、やり方も知らない。だから、出来ない。見よう見まねで似せた所で、馬鹿にするなと怒鳴られて終わってしまった。
あぁ、また今日も仕事が上手くいかなかった。もっと泣き喚いてみっともなく縋ってみせれば、いいのかもしれない。でも、それに伴う心の動きが解らない。どうすれば、他人と同じように動けるのだろうか。
いや、例え他人と同じように動いたところで価値なんて微塵もない俺には無意味なのかもしれない。きっと、心の動きってのは痛いのだろう。人間が感情とやらを動かす瞬間ってのは、誰しもが似たような顔をする。それは、何処か痛みを耐えるような、それでいて嬉しそうな、なんとも複雑な表情筋の動き。


「お前はさ、表情は全然動かないクセに目は動くのね。」


そんな俺が物珍しかったのか、風変わりな客が俺に付いた。同僚が悪し様に何でアンナ出来損ないって言っているのが聞こえた。この風変わりな客は、どうやら上客だったらしい。出来損ないで尚且つ可愛げがないらしい俺の何を気に入ったのか知らないけれど、世の中には物好きがいたもんだ。


「ほら、またその顔。」
「はい。」
「いや、解ってないでしょう?お前はね、顔はそれこそ作り物みたいに綺麗。いや、作り物だね。何をしても動かないでしょう?」
「はい。」
「だけどね、瞳は凄く動くんだよ。」
「はい。」


あぁ、何時もの戯れか。


「ほら、嬉しそう。」


嬉しいって何だ?つか、瞳が動くって何だ?


「好きだよ。大好き。」


この男が戯れに口にする言葉。好きだとか、愛してるだとか。


「ねぇ、何時になったら俺をお前の中に入れてくれるの?」


今現在進行中で俺を抱いてるのはお前だけどな。
あぁ、腰が痛い。昨日の客が乱暴にしてくれたおかげで、今日は随分と痛い。昔に比べてマシにはなったけど、それでも痛いものは痛い。
リアルに皮膚が擦れて、響く水音が如何わしい。
ズクリと奥をうがつ他人の熱が平気になったのは何時だっただろう。それすら、遠い記憶の中に曖昧に埋まっている。



「ねぇ、好きだよ。」


理解、出来ない。
好きって、なんだ?
どうして、お前はそんなにも優しい?
こんな出来損ない、好きに扱って打ち捨てればいいのに。壊れた玩具に執着するとか、お前は子供か。


「ねぇ、好き、だよ。」


あぁ、解らない。
それでも、俺はこの男が嫌いではない。