日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

涙なんて流してたまるか。

噛み締めた血の味は忘れない。忘れてはいけない。それを糧に、前に歩くんだから。
泣いてたまるか、涙なんて見せてたまるか。涙は付け入る隙でしかない。涙を器用に使って嘘を使って生きるには、自分は弱いから。嘘に隙を作る涙は流さない事にした。表情を作って、感情を作って、そうやって生きていく。ただ、身体も心も凍らせて、何も感じなければいいだけだ。
噛み締めた唇、流れる真っ赤な血液。この色と味を忘れなければ、もっと強く生きていく事が出来る。
全てを呪って、全てを見下して、そうやって自分を築いてきたのは、紛れもない自分。誰のせいにだって出来ないんだ。
見上げた空は、とてもとても美しい青。赤。紫。消えていく太陽を迎合しよう。登る月を賛歌と共に迎えよう。
さぁ、夜がくる。
暗闇は見方だ。全てを覆い隠して、全てを曖昧にしてくれる闇。それが、私を支える。さぁ、私の時間だ。誰にも邪魔はさせない。この日の為に、全てを築いてきたのだから。邪魔は、させない。何人たりとも、私の邪魔をすることは許さない。
どんなに温かい空間でも、居心地の良い空間でも、私を溶かすことはできない。感謝はしている。こんな屑でどうしようもない私を、愛して温めて与えてくれた人々。感謝は、してもしきれない。
壊れた部品が、実は凍らせていただけでまだ動くことを教えてくれた人たち。
貴方達がいたから、多分私はギリギリで壊れずに生きてこられたのだろう。壊れずに、こうして暗闇の中で息をしているのだろう。潜む闇が一段と濃くなる。呼吸するのも難儀なこの空間が、実は何よりも私に優しいのだ。そう、私は暗闇の中で生きる、深海魚みたいな存在。
グロテスクで、目を背けるような異形。それが、きっと私の本質。見間違えようの無い、私の本来の性質。
あぁ、きっと貴方達はそんな私を知っていたのだろう。知っていてなお、私を愛してくれたのでしょう。同じ愛を、返す事ができたら良かったのに。
噛み締めた血の味を、砂を噛む想いを、忘れることが出来たら幸せだったのでしょう。そして、それを望んでいたのでしょう。
どこまでも、私と共に落ちると言ったあの言葉に、きっと嘘はないのでしょうね。それえでも、私は貴方達を連れて行くわけにはいかないの。
それが、私の愛の返し方。
私の愛は、きっと歪んで間違って正当ではないから。だから、正当な愛の形を返したいから、私は一人でこの空間にいるんだ。



巻き込まないことが、優しさだなんて嘘。
巻き込まないのは、私のエゴ。
どうか、貴方達は幸せに。そして、何時までも明るいままで。
そう望むことすら、傲慢で贅沢なことかもしれないけど。
たかが闇夜の獣一匹。忘れてくれるだろう。時は全てを忘却してくれる。忘れのは、最大の自己防御なのだから。どうか、その機能を存分に発揮させて、忘れてください。



さぁ、目の前に迫る最後の瞬間。
突き立てる刃物の感触と、噛み締めた時と同じ赤。
切り裂く肉の感触。あふれ出す内臓の色は醜く、まるで作り物みたいな。
気持ち悪いけれど、これはきっと私が望む最高の瞬間。
切り開いた腹の中、腐った内臓を掻き出して消毒。
温かい血潮が顔に身体に、あぁシャワーを浴びないと。
切り取った心臓は、肥大してハートに見えない。ここに心があるだなんて嘘。だって、こんなに汚いのに。








「雪都?どうした?」
「呑み過ぎた?二日酔い?それとも、何か悪い夢?」
「泣いてるのか?怖い夢か?それとも、悲しいことでもあった?」


目が覚める。夢だったのか。それとも、これが夢でアッチが現実?どっちでも、たいして変わりはないけどね。でも、こっちが現実がいいな。


「大丈夫か?水、飲むか?」
「ちょうだい。」


流れる涙が生温い。差し出された水は冷えて美味しい。一本全てを一気に飲み干してから、煙草を咥える。そうだ、昨日は呑んでそのまま寝たんだ。毛布、あったかいな。


「悪い、夢?」


心配そうな顔。


「ううん。叶わない願いが、叶う夢。」


泣いてたまるかって、涙を見せてたまるかって、思ってた。
でも、この現実が私を築く。今まで知らなかった色んなことを、教えてくれたから。
私は、きっと、幸せだ。


涙は流さないけど、涙が付随する感情は思い出せた気がした。凍らせた感情を、溶かす術を知った気がした。