日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

涙に暮れる茜空

この時期は好き。今までとは違って、仕事が終わっても明るいから。ほら、咥えた煙草だって蛍にならないでしょう?オレンジの空、流れる雲、微妙にまだ見える青と黒の境界線。ぼんやりとした夏前の空気。生温いような、冷たいような、誰かに肌を撫でられてるみたいな風。
全てが、好きな感触。
流れる音楽は、意味も解らない言葉の子守唄。意味は知らないけど、優しい旋律と背中合わせの悲しい声が、子守唄に似てるなって思うから。
半袖体操服の子供、薄手のカーディガンを引っ掛けた女の人、重そうにジャケットを持ってる男の子、腕まくりしたワイシャツと着慣れない制服の高校生二人組み、会社帰りのサラリーマン、これから出勤なんだろうお水の女性の肌の白さ、どこか現実味の無いお祖母ちゃん。そんな電車の中は、どこかけだるいような、それともこれから起こる何かに期待するような、そんな相反する空気に満ちてる。
寄りかかった扉から見える海は、静かで穏やかで凪いでる。
私は、そんな電車の中から全てを眺める傍観者。何処にいても、何をしていても、私は混ざれない。あくまで、傍から眺める観察者。ってか、観客?むしろ、弾かれた存在かな?
現実味がないと言われ続けて早幾年、相変わらず現実世界に溶け込めない中途半端な傍観者。思い出したように世界に現れては消える存在。そんな私は、電車の中で欠伸を一つ。
眠いような、だるいような、でも、窓から見える明るい世界にどこかワクワクして期待してて、何かが始まるような終わるような。曖昧な感覚だけども楽しい時間。
轟音と共にホームに滑り込む電車。
いままでの空気が嘘みたいに人々が動き出す。出口を求めて動くその波を邪魔しないように、何とか乗って一緒に降りる。
吐き出された人々は我先に改札へと突進していく。
薄暗いホーム、古びたコンクリートの壁、白い地下通路の低いけど高い天井、前を歩く女の子のピンク色した鞄、後ろから抜き去っていく男性は携帯に必死に謝ってる。
中央に向かって両側が沈み込んだ階段を登って、改札を通り抜ける。
目の前に広がるのは、悲しいぐらいに綺麗に暮れる茜空。
さっきまでの、曖昧で、隣の子供の話みたいにグチャグチャと色んな物が混ざった空気は無くなった。
残るのは、泣きたいぐらいに暮れる茜空。思いっきり吸い込んだ空気と煙。
涙は流れないけど、なぜか泣きたくなる瞬間。
思いっきり声を上げて泣き喚いてみたいけど、そんな子供染みたことは出来ないし、かすかに胸に残る矜持が私を歩かせる。
止まらない、止まってなるものか。
歩く、前を見つめて、歩く、真っ直ぐ前だけを見て。
後ろも下も横も向かない。向いたら最後、そのまま止まりそうな気がした。
私は、歩く。
足を動かす。聞こえる音のリズムに合わせて歩く。
オレンジの空が、滲んで見えた。