日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

毎日適当で生きてます。

今日の仕事は引越し一件と犬の散歩代行が二件と、それからレストランのセッティングが三件。引越しの合間に犬の散歩を一気にクリアして、それからレストランをはしご。
いや、今日は良く働いたよ。自分頑張ったよ。これで家賃と携帯代を払えるね。
不定期な収入も、この自由さには変えられない。定期的に生きない自由さは世間体って言う不自由と引き換えに手に入れた大切なもの。そもそも、誰かに命令されるのも支配されるのも嫌いだし、自分の意に沿わない仕事はしたくないし、スーツ着て毎日決められた時間に従って動くなんて、俺には耐えられない。
社会人なら耐えてしかるべきその拷問に、俺は耐えられなかった。一年間だけ頑張ったけど、ついに身体を壊した。精神的な負担が、俺の意思より身体を先に痛めつけて限界に持っていったらしい。一ヶ月の休職と入院、退院した俺の居場所は会社から消えていた。まぁ当然だと思う。この不景気、余程優秀な人材じゃない限り、一ヶ月もの休職を許すわけがない。会社の寮を追い出されて、何とか家賃四万のボロアパートを探して引越し、そのまま何でも屋まがいの仕事を始めた。
手書きのチラシと携帯電話、それだけあれば俺の仕事は成り立つ。基本は、俺が気に入った仕事だけ受けてる。依頼人と顔を合わせて打ち合わせをして、気に入らなければキャンセルもする。収入は減ったし一日を何とか越えるだけで精一杯の生活になったけど、元から俺はあまり金銭に執着がない。
金がなければ困るけど、欲しいと思ったことはあまりない。金に執着する事がどんだけしんどくて面倒なのか、身近な反面教師もいたしね。
そんなこんなでその日暮の気ままな生活。縁の切れた実家、縁の切れた身内は関係ないし、俺個人的に付き合ってる人間も少ないので、それを咎める人間もいない。
まぁ、この仕事始めてから付き合いのある人間は少なくないけど、彼らは俺を指差して嘲笑うことはないし。似たり寄ったりな暮らしをしているせいか、集まっても互いに詮索しあうことないし。
踏み込まない、踏み込まれない生活ってのは、俺が望んでいる最高の環境だった。


仕事終わったその足で大家さんに家賃払ってから、残った金で携帯代払って、少なくなった金で先に煙草をワンカートン確保してから、何時もの飲み屋に直行する。汚い店だけど、料理は美味いし安い。居酒屋メニューだと味が濃いけど、この店の料理はどこか懐かしい味がする。


「ごはーん。」
「おう、お疲れさん。」
「今日はなに?」
「竹の子、煮るのと焼くのと揚げるの。」
「全部。」
「はいよ。」


酒は飲まない。つか、飲めない。あまり美味しいと思ったことがない。アルコールに弱いってことはないけど、あまり好んで飲まないし、美味さの解らない俺が飲んでも酒に失礼だと思うし。
いつもの席で煙草を咥えれば、灰皿を投げられる。携帯を弄りつつ受け取って、料理がくるのを待つ。この店でささやかな一人の夕食を採るのが、俺の楽しみであり一日のゴールだ。この店に来ると、あぁ一日が終わったと感じる。そして、今日も一日生きてたなって思う。テレビから芸人の笑い声。厨房から響く包丁がまな板を打つ音。常連客の話し声。酔客の冷やかし。全てが俺に染み込んで馴染む。この感覚は貴重だ。一年間社会人をしてた時には感じられなかったものだし。所謂普通の生活とやらからはみ出した今のほうが、俺にとっては普通なのかもしれない。


「景気はどーよ。」
「ぼちぼちー。揚げ出汁?」
「竹の子、豆腐、鶏肉。新作だ。」


手渡された器には山盛りの揚げ物がタップリの出汁に沈んでる。


「あー・・・出汁が物足りない。それから、鶏肉の下味が邪魔。」
「おう、この煮物は?」
「うん、これは美味い。で、こっちの焼きは梅肉ソースがチョー美味い。」
「焼きの味噌は?」
「イマイチ。味噌が八丁味噌でしょ?ちょい甘い気がするな。」
「そうか。」


何かと食べさしてもらうこの店。新作料理の実験台になる替わりに、俺の食い代はただになってる。先代の親父さんが俺を気に入ってくれたらしくて、親父さんが亡くなってからも律儀にそれは守られてる。


「それから、竹の子の灰汁抜き失敗してない?ちょいエグイよ。」
「エグイ・・・か?」
「うん。皮むいて灰汁抜きしなかった?」


竹の子は、皮のまま鍋に糠と突っ込んで煮て、最低でもそのまま一晩放置しないと駄目だ。でないと、どうしても竹の子のエグイ感じが抜けない。それに、この時期だともう大分薹が立ってるし。


「そうか。」
「そうそう。」
「それと、これも新作。デザートで悪いが、アイス作ってみた。」
「わぁ、イチゴじゃん。」


デザートの苺アイスは美味かった。一緒に出されたプレーンクッキーと合わせたら本当に幸せなデザートになった。
こうして、俺の一日は幸福の内に終わった。今日はイイ一日だった。思いがけず甘味まで食べられたし。


店を出た俺は、咥え煙草のままアパートまで帰る。
適当でいい加減だけど、俺は健康だし精神的に落ち着いてるし、今の所入院する予定もない。前の生活と比べたら、とんでもなく普通に毎日生きている。