日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

向かう先は

新しい季節の前触れ。
出しっぱなしで悲惨な状況になっていた炬燵。意を決して思い切って布団を跳ね上げて見れば、失くしたと思っていた靴下とかアンダーシャツとか、それに雑誌の切れ端だのテレビを見ていた時のメモだとか、ともかくとんでもない有様だった。ついでに、一体何時のだろう干からびた蜜柑の皮。己の自堕落をそのまま絵に描いたような現状。
視界を回してみれば、炬燵を中心に築かれたサークル。本が写真集、それにレポートに使った資料や仕事関連の書籍にメモが山積み。煙草の空き箱やガスの切れたライターまでも散乱している。散らかしたのは自分だけど、結構他人事にしたくなる。


「炬燵は人を駄目にするね。」


呟きながらも、布団やカバーを纏めて洗濯機に突っ込む。後は機械に任せるとして、次は机と天板を雑巾で水拭き。それから、掃除機でアンカの埃を綺麗に吸い取る。後は箱に仕舞って押入れにさようなら。次に使うのは冬が来たときだろう。
そして、今度は床に散らばった本の片付け。本棚を整理しつついらなくなった資料は処分しようと傍らにゴミ袋。
一枚一枚を見ていると確実に捨てられないので、纏めたままざっと概要だけ確認してゴミにする。どうせデータや必要最低限の書名なんかはデータベースを作って管理しているのだ。
仕事関係の資料を綺麗にファイリングしてから、それらも全て本棚に。ちょっとスペースの足りなくなってきた本棚。壁一面を本棚にしたいと思って早いく年。未だに実行に移せないのは、仕事が忙しいからで俺が悪いわけじゃない。
あぁ、転職したい。
さて、本棚片付けるついでに箪笥も整理するか。
押入れに掛けたカーテンを開けてから、黙ったまま速やかに締めた。うん、服は次の休日でいいや。見なかったことにしよう。別に、今のままで不便はないんだ。
掃除機で竹のラグを敷いた床を綺麗に掃除してから、モップをかける。使い捨てのシートモップは便利だ。零した煙草の灰や綿ボコリも逃さずキャッチ。広告に嘘偽りない実績だ。素晴らしい。
さて、それから用意するのは炬燵と交換に片付けられたテーブル。年季の入った木製のテーブルは、飯を食うには少し低いが書き物をするには最適だ。
引きずり出して掃除機を掛けてから雑巾掛け。それから、コンポだのパソコンだののコードを束ねる。自分で言うのもなんだけど、まぁ良く火事にならなかったもんだ。完全に電気コードが布団に埋まってたのに。
その辺で洗濯機も完了の合図を出してくる。
ベランダにすでに干してあった洋服を掻き分けて、炬燵布団を干して、ついでに洗ったセーターだのパーカーだのも干してやる。今日は天気がいいから綺麗に乾くだろう。
さて、お次は買い物か。
クリーニングでワイシャツとベストを受け取ってから、スーパーへ。今日は煮込みハンバーグにする予定。肉は買ってあるから、あと必要なのはシメジとマッシュルーム、それから炒め玉ねぎのペースト。ドミグラスソースで煮込みをするから、付け合せはほうれん草かキャベツか・・・いや、竹の子貰ったあまりがあるから、あれを湯がいてソースに合わせよう。それから、バケット一本買って、あぁ、マッシュルームがない。水曜日は八百屋は休み。
仕方ない、シメジ多めにしてブナピーでもいれるか。舞茸とエリンギも残っているし、そんで、スープは春雨戻したんのが残ってるから、あれとワカメでコンソメ仕立て。
バケット一本は多いか・・・いや、この天気ならあの馬鹿どもは絶対に飯を食いにくるはずだ。
籠に放り込んだ食材を再度確認してから、レジへ。いつものおばちゃんは休憩時間なのか見当たらない。仕方なく違うレジに並んだ。



「あら、今日はお休み?」
「あ、ドーモ。」


並んだレジで、何時ものおばちゃんとばったり遭遇。おばちゃんはやっぱり休憩らしく、いくつかの惣菜を籠に入れている。俺も、昼飯どうしよう。
買ったものを袋積めしながら少し考えて、スーパーの近くにある気に入りのカフェに。このカフェの石鍋シリーズは美味いのだ。


「こんにちはー。」
「こんにちは。お久しぶりですね、お仕事忙しいんですか?」



一時期週一ペースで通った店。何時ものカウンター席で、メニューを確認。日替わりランチは竹の子の天ぷらと桜海老ご飯。うーん・・・パスタも捨てがたいけど、今は米を食いたい気分だ。


「石焼チーズリゾット、珈琲とデザート付きで。」


煙草を咥えて煙を吸い込む。流れるラジオからは、最後の花見情報。もう散った桜からは緑の葉が顔を覗かせていた。


「お忙しかったんですか?」
「まぁ、春休みですし。」


ぼちぼち会話をしながら、出された珈琲を一口。機械淹れの珈琲だけど、カップは手作りなのか素朴な焼き物だ。緑の釉薬が、これから訪れる新緑の季節を連想させる。大きめのカップにたっぷり入っているのは嬉しい。



「お待たせしました。」


石焼鍋の中で湯気を立てるチーズリゾットに、粉チーズをタップリ。それから少し混ぜて、上から食べる。おこげは最後の楽しみだ。
付け合せのスープには千切りにした野菜。コンソメベースのスープは丁度いい塩加減だ。綺麗に皿を空にしてから、デザート。
シフォンケーキにたっぷりの生クリームと果物を持ったそれは、文句なしに美味い。甘すぎないクリームがシフォンケーキにぴったりだ。
店を出てから、ゆっくり歩き出す。自転車が欲しいけれど、来月の給料日まで我慢だ。今月は何かと出費がかさんだ。
昨日は嘘みたいに寒かったけれど、今日は春めいた陽気と太陽。柔らかいけれど眩しい太陽の光の中、どこで上げているのか鯉のぼりが空を泳いでいる。
桜が終わって新緑の季節となれば、すぐに端午の節句、それが済めば梅雨を挟んですぐに夏が来る。
憂鬱な春は思った以上に短く過ぎてしまう。そこから向かう先は、全ての命が輝き動く夏だ。



「うん、上出来だ。」



太陽を十分に浴びて乾いた洗濯物を片付けて、帰り道で買ってきたコーラの缶を開ける。
煙草に火をつけて咥えながら、パソコンを起動させる。
短いメールを一通。それを三人に同時送信。気紛れは、久しぶりの休日と天気のせいにした。







半分実話の散文。
休日に天気が良いとご機嫌です。
古歌さんの炬燵の周りはカオスですからね。手を伸ばして届く範囲に物を設置するのは、最早炬燵の宿命ですよ。だって、でたくないもん。