日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

美しき日常

明日が必ず来て、それが今日と同じ繰り返しの日々で。退屈でくだらなくて刺激も何もなくて、そんな日々を切望する。


今日は何とか生き延びた。今日は何とか寝床も確保できた。泥の中、僅かに乾いた木の洞の中。無理矢理に身体をねじ込んで、入り口を一応カモフラージュ。これで、今日は落ち着いて眠れそうだ。
雨で濡れた服は冷たくて体温を奪っていくけど、火を焚いたら自分から居場所を知らせるようなもの。戦場の真っ只中でやるにはリスクが高い自殺行為だ。
コートだけは脱いで、それから一日使って疲弊した武器の手入れ。道すがら手に入れた弾丸は貴重だ。銃が一番楽だけど、何かと限界があるもので、最近では滅多に使わない。頼りになるのは、背中に掛けた一振りの刀。何度もピンチを救ってくれたコレは、無名な刀匠の一本打ちだと聞いた。大量生産の安物とは違って、たった一つだけ作られた業物は切れる。きちんと手入れをして血潮を拭ってやれば、切れ味は鈍らない。


「あーあ、止まねーな。」


水煙が立つような土砂降りの雨。フィールド全体を覆った雲が惜しげもなく大地を濡らして行く。このフィールドに入ってから、太陽を拝んだためしがない。雨は嫌いじゃないけど、こうも続くと飽きてくる。
ポケットを探って取り出すのは缶ケース。中に入っている煙草とマッチ。火を灯して貴重な煙を吸い込む。煙草は身長も止まるし身体に悪いから止めろと散々言われたけど、今の所禁煙は考えていない。禁煙するより自分の精神が焼き切れるのが早いと啖呵きって執務室を出たのは何時だったか。
クソみたいな世界に入り込む前だったかもしれない。


「ったく、これじゃ動くに動けねーな。」


今夜は敵の襲撃もないだろう。穏やかに朝を迎えられるかもしれない。だいたい、敵も味方もはっきりしない今回のフィールドはどうも調子が出ない。
だからだろうか、クダラナイ思考が止まらない。
明日が毎日来る事を望んで、退屈しそうな日常を求めてしまう。繰り返す今日と明日を望んでしまう。それが嫌で、全てを捨てて放り出して単身入り込んだのに。自ら捨ててきたモノに縋ってあまつさえ戻りたいなど、なんとも愚かな話だ。
繰り返す同じ日々は、今思えば美しく安定した世界だったのかもしれない。
当然の様に存在する同じ毎日。朝がきて夜になって一日が終わってまた朝がくる。終わりと始まりが明白に線を引かれた一日。


「まぁ、今も悪くないさ。」


明日がくるどころか、今日の生存さえ危ぶまれる日常。切捨て、殺し、他者を害して生きる時間。安定とはかけ離れた世界なのだけれど、コッチの世界に馴染むのは案外早かった。もとから、自分はきっと枠に嵌れない人間だったのだろう。こんな不安定で曖昧な世界が心地良いのだから。


「今の瞬間こそ、俺の美しき日常なんだよな。」


そんな呟きは、雨の中に掻き消えていく。刀身に映る己に笑いかけて、眠りに着く一匹の獣。そう、獣なのだ。所詮人間も、世界を変えてやればただの獣に過ぎない。もっともらしく仮面を繕う必要がなければ、俺みたいな獣に近い人間もさぞかし生きやすいだろうに。