日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

事務所はいつもと同じ色をしてました。

朝日が眩しい午前九時。
事務所の鍵をあけて中に入る。玄関で郵便物を回収するのも忘れない。新聞と、請求書と請求書と督促状と請求書と・・・悲しくなるから止めました。それから、事務所の窓を開ける。締め切ったままの空気が入り込んだ新しい空気に押しやられて、悲しそうに退場していく。
クソ寒い冬の雪空。もう少し温度が下がれば空から白い塊が落下してくるだろう。白いってだけで人々に受け入れられてさも美しいモノの様な顔をしている、俺にとっては迷惑なだけの雪。
それから、台所で珈琲メーカーをセットする。もちろん、この極貧事務所に新品を買うような余裕は無いので、何年か前に事務所の持ち主が拾ってきたヤツ。ポットだけは新しい。もちろん、もらい物です。罅割れたポットにガムテープを巻いて使っていたら、憐れんだ人。その人の基本は鬼畜でドクサレなんですけど、たまに思い出した優しさを放出してくる。


「仕事の時間なんで起きやがれ駄目男。」


またソファーで寝たな。しかも、床に転がる酒瓶。こんなもの買う余裕があるのなら、まずは俺に給料を支払ってついでにボーナスでも支給しろ。


「寒い・・・。」
「冬ですからね。」
「暖房は?」
「まだいりません。」


暖房?寝言は寝て言え。電気代もガス代も微妙に滞納してるんだから。まだ止められないのは、なけなしの金を遣り繰りして無理矢理支払ってるからです。



「あー、仕事って言った?」
「言いました。」
「仕事ねー・・・・。」
「面倒とか言ったら張り倒して永眠させますよ?三ヶ月ぶりの大きな仕事なんですから、失敗したら首刈りますね。」
「俺、一応お前の上司なんだけど。」
「だったら率先して仕事拾ってこいよ、このごく潰しの能無し禿げ。むしろ一本残らず毟るぞ死ね。」


珈琲をカップについで、能無し上司の前に。生あくびで煙草を咥える使えない上司を毎朝起こすのが、俺の一番最初の仕事。
それから、回収してきた郵便物を仕分けして、関係ないもの(主にお金を支払ってくださいと言い方だけは丁寧な脅迫状)を始末する。俺には何も見えません。見てません。見たくありません。



「珈琲、どうしたの?」
「貰ったんです。昨日、佐久間さんが仕事と一緒に持ってきてくれました。」
「俺の居ない所で佐久間と会うなよ。」
「アンタはパチンコ行ってて有り金全部巻き上げられたでしょうが。その薄くて寒い財布をさらに薄くさせる技術に感動すら覚えますね。」
「あれは、貯金なんだよ。」
「寝ぼけて夢見てるなら永眠させんぞ、この駄目頭の駄目人間。むしろ、人間の看板下げろ。」


あー、今月も赤字かな。こりゃ困ったね。俺のバイト代足してもちょっと足りないよ、家賃が。
しょうがない、また割りのイイバイトを見つけて、ついでにその辺を暢気に歩いてる不良少年を狩ってくるかな。でも、最近顔を覚えられて狩る前に逃げられるんだよねー。まぁ、逃げても捕まえて狩るけど。極力無駄な力は使いたくないし。



「あ、佐久間さんに頼むか。」
「おい、人の話を聞いてるか?会うなって言ってんのに、なんであの馬鹿の名前を出すのよ。」
「どっかの大馬鹿と違って利用か・・・有能で、たん・・・優しい人ですから。あの人って基本キャラは駄目ですけど、案外悪くないんですよ?」
「・・・を都合よく挟むな。」
「まぁ、今日の仕事をキッチリこなしてくれば、何とかなります。」
「よっしゃ、お仕事するって素晴らしいね。」
「だったらまずはソファーから身を起こせ。」



束ねた書類をファイルに差し込んで、ついでにソファーの上で未だに寝転がる駄目な大人を蹴り落とす。それから、仕事に着て行く服を準備して、必要なのは刀と銃もいるかな?そんで、一応タイマーと火薬に発火装置。予備の弾丸はいらないな。この人、持たせた分だけ使ってくるから。余ったら持って来いって言ってるのに。無駄弾撃つなら撃たれて来いっての。



「雪ちゃん、ネクタイ結んで。」
「いいですよ。」
「ちょ、ちがっ・・・それは結んでない。絞めてる。」
「いいんですよ。普段緩みっぱなしのダルダルなんですから。たまには絞められても。」
「いくない。それは、いくない。絞めたら俺の呼吸止まるから。」
「止まればいいのに。」
「泣くクセに。俺が死んだら、雪ちゃん泣くよ。」



ムカつくので、さらに絞めてやった。
そしたら、今度は本当に苦しかったみたいで、顔色変えたので止めた。あぁ、俺ってば優しい。


「無言で人を絞め殺すな。」
「無言じゃなかったら、何を言えと言うんですか。」
「アイシテルとか?」
「死ねばいいのに。」



そう言えば、最近この駄目な大人はヤンデレに嵌ったとか言ってたな。何、ヤンデレって首絞めながら愛してるって言うの?俺、首は絞めるけど愛してるとは言えないな。むしろ、そのまま死ねって遠慮なくイクよ?



「最近さ、雪ちゃん、篠さんに対して酷くなーい?」
「自分の胸に手を当ててよーく考えろ、駄目人間の人間抜き。仕事時間なんで、早く出掛けてください。いいですか?弾は残ったら持って帰ってきなさいね?無駄に撃ってこないでくださいね?無駄に撃つなら撃たれろ。」
「え、最後だけ命令系?」
「早く行け。」


事務所から蹴り出したら、丁度下で佐久間さんが待ってた。



「佐久間さん、篠さんをお願いします。」
「おー、適当に預かるわ。晩御飯までには帰すなー。」
「弾除けでも何でも、使ってくださいね。」
「ありがとな。これ、少ないけど貰いモンだし、気にしないで食え。」
「うそ・・・半年ぶりに牛肉見たよ。佐久間さん、ありがとうございます。」



おぉ、桐箱に入った牛肉なんて生まれて初めて見たよ。牛肉なんて、半年ぐらい食べてないし。すき焼きかな、焼肉かな。それとも、しゃぶしゃぶ?でも、折角だし肉って料理が食べたいなー。塩胡椒だけで焼くか?



「・・・雪くん、何時でも家においでね。」
「はい。あ、篠さん。今日はご飯豪華にしますから、真っ直ぐ帰ってきてくださいね。」
「おう。すき焼きだな。」
「そうですね。肉入りのすき焼きにしましょう。佐久間さん、本当にこき使ってくださいね。弾除けでも溝埋めでも土嚢でも。」



すき焼きって事は、焼き豆腐も買ってこないと。それに、どーせなら日本酒熱燗でもつけようか。篠さん日本酒好きだし。俺もちょっと飲もっと。



「おい、篠。」
「あんだよ。」
「今日は覚悟しろよ。死なない程度に殺してやる。」
「嫉妬は見苦しいぞ、馬に蹴られて死ね。」




そんな、いつもと同じ事務所の風景。