日々妄想を逍遥

ダイアリーから移築。中身は変わらずに色々と、あることないこと書き込んでます。

ベランダ

部屋の中で煙草吸わないで。
クソ寒いベランダへ。
どっちが居候だか解らないね。
寒いと指先から感覚が消えていく。
戯れに灯した小さな炎。
ジッポの炎は少し優しい気がする。
指先を翳して、温めるって言うよりは、炙ってる。
全身炎に包まれたら、苦しいだろうね。
自殺するなら、焼死だけは避けたいな。
炎に包まれて労働条件の改善を叫んだ青年。
あれ、中国だっけ?韓国だっけ?
ベトナムでもあったよね?僧侶が炎に包まれたって奴。
あー、そんなに遠くの話じゃなくても、身近にいたけど。
あは、過去形で話せる様になったんだ。
俺も、年を取るはずだ。
あれ、何時の話だっけ?
覚えてない。
でも、鮮烈な炎の色は覚えてる。
燃え盛る家の中、綺麗に微笑んで炎に飲み込まれた。
灯油撒いて、俺だけ逃がせるように誘導するように逃げ道を作って、用意周到。


「ちょっと、なにしてるのさ!!」
「煙草、吸ってるんですけど。」
「ライターで自分の指炙るなんて、そんな趣味あったのかよ。」


言葉は荒いくせに、大慌てで水道まで引き摺って、流れる水に指を突っ込んで、微かに赤くなってるのが可笑しい。
笑ったら、馬鹿じゃないのってさ。
じゃ、そんな俺を心配して手当てしてるお前さんは、もっと馬鹿だよ。
あーあ、白い包帯嫌いなんだよね。
黒い包帯とか、ないのかね。
カラー軍手があるぐらいだし、包帯もカラーバリエーション作らないと。ファッションだよ。きっと流行るさ。


「怪我しといて、何をニヤついてんだよ。」
「いや、ちょっとした思考遊び。」
「馬鹿じゃない。痛覚麻痺してんの?」
「かもな。」
「他人事みたいに言うなよ。アンタの事だろ。」


年下に怒られて主導権握られるって、それってどうなんですかね。情けない?そうかな?
少なくとも、コイツは俺の過去に干渉しないし、知ってて知らないフリをするのが上手い。さすが、役者志望だけあるよ。
小さな劇団に所属して、日夜、稽古だバイトだと忙しく飛び回るくせに、必ずこの家に帰ってきて。
ついこの間、どこかの雑誌に載ったと喜んで報告してきたっけ。


「煙草、止めたら?値段も上がるし、アンタ年なんだし。」
「俺、お前さんと三つしか違わないけど。」
「だっけ?もう仙人とかそんな感じだよね。俗世を棄てて、霞でも食べて生きる気?」
「んな妖怪、こっちから願いさげだ。」
「うん。そうだね。」


不意打ち。
んな、子供みたいな顔で嬉しそうに笑うなよ。
ちょっとドキッとしたじゃないか。


「さーて、夕飯できたけど、食べる?」
「あぁ、もらう。」
「その手で食えるの?」
「俺、左も使えるから。」
「なんだ。あーんとかして赤ん坊扱いしようと思ってたのに。おいちいですかーって。」
「・・・楽しいか、それ。」
「俺は楽しい。普段無駄にアンタに子供扱いされるから、そのお返しだよ。」
「仕返しの間違いだろう。」


五月蠅いとか叫んで、夕食の準備をする横顔を、そっと盗み見る。子供だな、どうみても。



「なぁ。」
「あぁ?」
「・・・死ぬときは、目の前で死ねよ。」


コイツに、俺が感じたショックは与えたくないから。
でも、約束を破る気もないから。
俺は、暫くは死ねない気がする。
それでも、そんな感覚が悪くないと思える程度に、俺はそれなりに生きているのかもしれない。